チームで実現するLGBTQ+インクルージョン:ミドルマネージャーのための実践的コミュニケーションガイド
はじめに
現代のビジネス環境において、多様性、公平性、包容性(DE&I)の推進は、企業の持続的な成長とイノベーションに不可欠な要素となっています。特に、LGBTQ+に関するインクルージョンは、従業員が安心して「自分らしく」働ける環境を築く上で重要な課題です。
企業全体のDE&I戦略は人事部門や経営層が主導することが多いですが、実際に日々の職場でインクルーシブな文化を醸成し、多様な従業員が能力を最大限に発揮できる環境を作るのは、チームを率いるミドルマネージャーの役割が大きいと言えます。チーム内の人間関係や日常のコミュニケーションは、従業員の心理的安全性に直結し、インクルージョンの度合いを決定づけるからです。
本稿では、ミドルマネージャーが自身のチーム内でLGBTQ+インクルージョンを推進するために実践できる、具体的なコミュニケーション手法とアプローチについて解説します。
なぜチームレベルでのコミュニケーションが重要なのか
組織全体としてLGBTQ+に関する制度やポリシーを整備することは重要ですが、それらが従業員一人ひとりの体験として根付くためには、チーム内の日常的なコミュニケーションが鍵となります。
チーム内でオープンかつ相互尊重に基づいたコミュニケーションが実践されることで、以下のような効果が期待できます。
- 心理的安全性の向上: メンバーは自分の意見や懸念を率直に表現できるようになり、性的指向や性自認に関する不安を感じることなく仕事に集中できます。
- エンゲージメントの向上: 「自分は受け入れられている」という感覚は、仕事へのモチベーションやチームへの貢献意欲を高めます。
- イノベーションの促進: 多様なバックグラウンドを持つメンバーの視点やアイデアが活かされやすくなり、創造的な問題解決につながります。
- 離職率の低下: インクルーシブな環境は、従業員の定着率向上に貢献します。
ミドルマネージャーは、これらの効果を生み出す「場」を作り、チームメンバー間の建設的な対話を促す役割を担います。
ミドルマネージャーのための実践的なコミュニケーション手法
チーム内でLGBTQ+インクルージョンを進める上で、ミドルマネージャーはどのようなコミュニケーションを心がけるべきでしょうか。具体的なアプローチをいくつかご紹介します。
1. 用語の理解と適切な使用
基本的なLGBTQ+関連の用語(例: LGBTQ+、シスジェンダー、トランスジェンダー、ノンバイナリー、アライなど)についての正しい理解は、不要な誤解を防ぎ、敬意を示す第一歩です。人事部門などが提供する研修資料などを活用し、知識をアップデートすることが推奨されます。
最も重要なのは、個々のメンバーが自分自身をどのように表現することを望むか(希望する名前や代名詞など)を尊重し、それに従ってコミュニケーションを取ることです。もし不明な場合は、プライバシーに配慮しつつ、率直かつ丁寧に尋ねる姿勢が誠実であると受け止められやすいでしょう。特定の個人について、勝手に決めつけたり、不正確な用語を使用したりすることは避けてください。
2. オープンな対話の促進と心理的安全性の醸成
チーム内でLGBTQ+に関する話題を含め、多様な意見や懸念についてオープンに話せる雰囲気を作ることが重要です。ミドルマネージャー自身が、DE&Iやインクルージョンの重要性について積極的に語り、多様なバックグラウンドを持つメンバーの経験に耳を傾ける姿勢を示すことで、メンバーは安心して自身の考えや経験を共有できるようになります。
定例会議や1on1ミーティングなどの場で、意識的にインクルージョンのトピックに触れたり、「何か気になることや懸念はありませんか?」といった問いかけを行ったりすることも有効です。ただし、個人的な情報(性的指向や性自認など)は非常にセンシティブな情報であり、決して開示を強制するものではありません。あくまで、話したい人が安心して話せる「安全な場」を提供することに注力してください。
3. 傾聴と共感の姿勢
メンバーからLGBTQ+に関する話(自身の経験、友人・家族のこと、職場で感じたことなど)を聞く機会があった場合、判断を下すことなく、真摯に耳を傾け、共感を示す姿勢が不可欠です。相手の経験や感情を尊重し、安易なアドバイスや自分自身の価値観の押し付けは避けてください。
個人的な体験談は、当事者にとって非常にデリケートな内容を含み得ます。共感的に聞くことで、メンバーは「このチームでは自分は受け入れられる」という信頼感を深めることができます。
4. 誤解や困難な状況への対応
チーム内でのコミュニケーションにおいては、悪意はなくとも知識不足から生じる誤解や不適切な発言が発生する可能性もゼロではありません。そういった状況に直面した場合、ミドルマネージャーは冷静かつ建設的に対応することが求められます。
- 誤解への対応: 悪意のない誤解や質問に対しては、頭ごなしに否定するのではなく、正確な情報を提供したり、共に学ぶ姿勢を示したりすることが有効です。例えば、「そうではなく、こちらの方がより正確な表現ですよ」のように、具体的に伝えることで、チーム全体の知識向上につながります。
- 不適切な発言やハラスメントへの対応: 明らかに差別的、侮辱的、あるいはハラスメントに該当する発言があった場合は、毅然とした態度で対応する必要があります。その場での注意に加え、必要に応じて人事部門やDE&I担当部署に相談し、組織のポリシーに基づいた適切な措置を講じてください。被害者の安全と尊厳を守ることが最優先です。
- アウティングのリスク管理: 本人の許可なく、性的指向や性自認に関する情報を他者に漏らすこと(アウティング)は、重大なプライバシー侵害であり、ハラスメントとなり得ます。ミドルマネージャーは、チームメンバーの個人的な情報管理に最大限の注意を払い、アウティングを絶対にしない、させないという意識を徹底する必要があります。もしアウティングが発生した場合、速やかに組織のリソースを活用して対応してください。
ミドルマネージャー自身の成長と組織リソースの活用
チームにおけるLGBTQ+インクルージョンを推進するためには、ミドルマネージャー自身が継続的に学び、成長していく姿勢が不可欠です。LGBTQ+に関する社会的な変化や、組織のポリシーのアップデートに常に注意を払い、自身の知識やアンコンシャス・バイアスに気づく努力を続けてください。
また、一人で抱え込まず、組織のリソースを積極的に活用してください。人事部門やDE&I専門チーム、社内のLGBTQ+に関する従業員リソースグループ(ERG)などは、情報提供、研修、相談対応など、様々なサポートを提供しています。これらのリソースと連携することで、より効果的なインクルージョン推進が可能になります。
まとめ
チームにおけるLGBTQ+インクルージョンは、単に制度を整えるだけでなく、ミドルマネージャー主導の日常的なコミュニケーションを通じて実現されるものです。用語の適切な使用、オープンな対話の促進、傾聴と共感、そして困難な状況への適切かつ毅然とした対応は、チームメンバーの心理的安全性を高め、多様な才能が最大限に発揮されるインクルーシブな環境を築く上で重要な鍵となります。
ミドルマネージャーの皆さんが、自身のリーダーシップを通じて、誰もが安心して「自分らしく」働き、貢献できるチーム、そして組織を共に創り上げていくことを願っています。継続的な学びと実践を通じて、インクルーシブなビジネスを推進していきましょう。